


セキュリティ事故が発生すると、人々はまず問いかけます。
「誰が責任を取るのか」と。
そしてその矢は通常、現在その座に就いている最高経営責任者(CEO)や最高情報セキュリティ責任者(CISO)に向けられます。事故が発生した時点で会社を率いていた人物、その人をまさに責任者と見なすからです。一見すると当然のように思えます。しかし、実際の事故のルーツをたどってみると、話ははるかに複雑です。
事故は突然起こるが、問題はずっと前から育っている
最近、国内の主要企業で明らかになった大型セキュリティ事故を見ると、問題は事故が発生したその日に突然生じたものではありませんでした。古い脆弱性、基本的な保護措置の欠如、放置されたシステム、緩慢な認証管理、脆弱なガバナンスが、長い時間をかけて蓄積された末に、一瞬にして爆発したケースが多かったのです。
政府と個人情報保護委員会は、2025年のSKテレコムの事故について、パスワードなどの基本的な保護措置の不備、老朽化したシステムの運用、遅い通知、そしてガバナンスの問題を指摘しました。KTの事件でも、政府の調査結果により、不法なフェムトセルへの接続を可能にした証明書管理の脆弱性と、長期間維持されてきた構造的な管理不全が確認されました。すなわち、事故は一瞬で発生しますが、原因は通常、長い時間をかけて積み重なっているものです。
このような構造においては、事故が発生した時点のCEOやCISOがすべての原因を作った人とは限りません。それにもかかわらず、実際の責任は往々にしてその時点の経営陣に集中します。結局、あるリーダーは同じ会社を引き継いでも運良く事故なしで任期を終え、別のリーダーははるか昔から存在していた問題に自身の在任中に直面し、無能力の象徴のように評価されてしまいます。セキュリティ責任が極めて重要であることは明らかですが、責任の始発点が曖昧であれば、評価も公正になり得ません。
新しいリーダーにまず最も必要なのは、現状の把握である
この構造的不合理を解決する現実的な方法はないでしょうか?
CEOやCISOが新たに就任した際、就任初期に独立機関を通じて組織のセキュリティ全体を点検する 「就任セキュリティデューデリジェンス(Initial Independent Security Posture Review)」を導入してみてはどうでしょうか。
新たに就任したCEOやCISOが、就任初期に外部の独立機関を通じて組織のセキュリティ状態を客観的に点検し、その結果を公式記録として残すプロセスです。
海外の実務動向を見ると、このアプローチは十分に現実的であり、説得力があります。EYは新任CISOの初年度戦略において、まず会社の現在のセキュリティ状態を点検すべきであり、その出発点として独立したセキュリティ態勢評価(independent assessment of cybersecurity posture)が重要であると説明しています。要点は、脆弱性スキャンはもちろんのこと、ポリシー・手順・技術・組織運営の全体を合わせて点検することです。
なぜこのようなプロセスが必要なのでしょうか。
理由は簡単です。人間も新しい病院に行けば、まず基本検査を受けます。会社も同様です。新しいリーダーが組織を引き受けたなら、今のセキュリティ状態がどうなっているかをまず確認するのが正常です。
しかし、現実にはむしろ逆の動きをすることが多くあります。問題を公式に発見した瞬間、説明責任と改善責任が同時に生じるためです。そのため、一部の組織では「正確に見ようとしないこと」が、むしろ都合の良い選択肢になることもあります。ですが、そうやって見ぬ振りをしてもリスクが消えるわけではありません。ただ記録されないだけです。
特にCISOの役割においては、この問題がより顕著に現れます。調査によると、CISOの平均在任期間は約18〜26ヶ月であり、一般的なCレベル幹部の平均4.9年よりも大幅に短いです。また、Heidrick & Strugglesの調査では、CISOたちが挙げた最大の個人的リスクはストレスが71%、燃え尽き症候群が54%であり、29%は侵害事故後に職を失う可能性があると懸念していました。この数値が物語っているものは明らかです。CISOは単に技術をよく知る人物ではなく、不確実なリスクと責任を同時に背負うポジションであるという点です。そうであればなおさら、「自分がどのような状態を引き継いだのか」を公式に確認する仕組みが必要です。
海外の制度変化もこの問題意識を裏付けています。
米国証券取引委員会(SEC)は2023年にサイバーセキュリティ開示の最終規則を採択しました。上場企業はサイバー事故を重大と判断してから4営業日以内に開示しなければなりません。年次報告書には、サイバーセキュリティリスク管理・戦略・ガバナンス体制を説明する必要があります。経営陣が「セキュリティをどのように管理しているか」を投資家や市場の前で説明しなければならない構造が作られたということです。セキュリティはもはや内部の実務チームだけの仕事ではなく、経営説明責任の対象となりました。
欧州はさらに一歩進んでいます。ネットワークおよび情報システムセキュリティ指令2(NIS2)は、経営陣や管理機関がサイバーセキュリティリスク管理措置を承認し、その履行を監督しなければならないと明記しています。また、違反した場合には相当なレベルの行政罰体系も設けています。デジタルオペレーショナルレジリエンス法(DORA)も、金融分野におけるICTリスク管理に対する管理機関の全面的かつ最終的な責任を明確にしています。
言い換えれば、「セキュリティはITチームが勝手にやる仕事」という言葉は制度的に通用しなくなり、経営責任が強化されているというトレンドです。
就任時のセキュリティ実査はどのように行えば実効性が生まれるのか
それでは、就任時のセキュリティ実査はどのように設計すべきでしょうか。
第一に、独立性が必要です。内部点検だけでは客観性に限界があります。外部の専門機関が実施し、結果は経営陣と取締役会レベルで公式に検討されるべきです。
第二に、範囲が広く、かつ深くなければなりません。一部のシステムの脆弱性スキャンやペネトレーションテスト(侵入テスト)だけでは不十分です。ポリシー、資産管理、認証体系、バックアップと復旧、セキュリティ運用、協力会社・サプライチェーンのリスク、セキュリティガバナンスまでを合わせて網羅して初めて、組織の実際の状態が明らかになります。
第三に、公式な記録として残さなければなりません。この報告書は単なる診断書ではなく、基準線(ベースライン)となるべきです。「就任当時にどのような脆弱性があったのか」、「何を優先的に対処することにしたのか」、「どれだけ改善されたのか」が残されてこそ、次の評価も可能になります。そうして初めて、責任も明確になり、投資の優先順位も決まります。
何よりも重要なのは、この手続きを防衛論理としてのみ捉えないことです。就任時のセキュリティ実査は、「私は責任を回避する」という免責文書ではありません。むしろその反対です。
「私は今、組織のセキュリティ状態を正確に把握した上でスタートする」というリーダーシップの宣言です。問題があれば隠さずに明らかにし、優先順位を決めて改善するという約束です。
取締役会の立場でも同様です。新しいCEOやCISOを任命する際、一定期間内に外部の独立したセキュリティ点検を受けるよう求めることは、不信感の表れではなく、健全な経営引き継ぎのプロセスに近いのです。
基準線があってこそ、責任も、投資も、改善も可能になる
就任セキュリティ実査が定着すれば、次の3つの点が変わります。
第一に、責任の始点が明確になります。前任時代から累積された問題と、現任体制で放置された問題を区別できるようになります。
第二に、セキュリティ投資の議論がはるかに現実的になります。漠然とした恐怖ではなく、実際の評価結果に基づいて取締役会やCFOを説得できるためです。
第三に、セキュリティが一回限りの対応ではなく、常時管理体系に変わります。就任時点の診断結果が基準線(ベースライン)となり、その後の継続的な点検で改善状況を測定する好循環が生まれます。
セキュリティは、事故が起きた後に確認するものではありません。本当に重要なセキュリティとは、事故が起きる前に状態を可視化することです。
新しいCEOやCISOに必要な最初の質問は、華やかなビジョンではないかもしれません。むしろ、この一文から始めるべきです。
「今、私たち組織のセキュリティ状態を、私たちは本当に把握しているのだろうか。」

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