


セキュリティ脆弱性には、CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)という番号体系があります。CVE番号自体は、脆弱性を区別するための識別子です。例えば、「CVE-2026-12345」という番号があれば、世界中のどこでも同じ脆弱性を指し示すことができます。
1999年に開始されたCVEは、公開されたセキュリティ脆弱性に固有の番号を付与します。セキュリティ企業やソフトウェア開発会社、政府機関は、この番号を基準に脆弱性情報を共有し、パッチを管理しています。
しかし、CVE番号だけでは、企業が何を優先して修正すべきかを判断するのは困難です。脆弱性がどれほど危険なのか、どの製品やバージョンが影響を受けるのか、どのような種類の欠陥なのかも知る必要があります。
これまで、この情報を補強してきたのが米国国立標準技術研究所(NIST)です。NISTは、国家脆弱性データベース(NVD: National Vulnerability Database)を通じて、CVEに危険度や製品情報を追加してきました。世界中の多くのセキュリティツールや脆弱性管理体系は、このデータを活用して対応の優先順位を決定しています。
NIST、NVD運営の改編
しかし、この構造が変化しつつあります。米国NISTは、2026年4月15日にNVDの運営方式を改編すると発表しました。すべてのCVEを同様の方法で分析することが困難になったため、優先順位を定めて一部の脆弱性を優先的に補強することにしました。
2025年4月にCVEプログラムを運営する非営利機関MITREと米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)が予算削減や契約満了、延長に関する議論を経た後に現れた、もう一つの変化です。
NISTが優先的に分析する対象は、CISAの「既知の悪用された脆弱性カタログ(KEV)」に含まれるCVEです。米国連邦政府が使用するソフトウェアのCVE、米国大統領令EO 14028で定義された重要ソフトウェアのCVEがこれに該当します。
ここでいう「重要ソフトウェア」とは、発電所や工場のような重要インフラのソフトウェアだけを指すのではありません。米国連邦政府の業務やセキュリティにおいて重要な機能を果たすソフトウェアを別途定義した概念です。
優先順位に含まれないCVEもNVDに登録されます。ただし、「Lowest Priority(最低優先度)— Not Scheduled for Immediate Enrichment(即時分析の予定なし)」のステータスに分類される可能性があります。脆弱性の名前はリストに掲載されますが、NISTによる詳細な分析は後回しになることがあります。
現在、CVEは番号だけを含んでいるわけではありません。CVE番号を発行する機関であるCNA(CVE Numbering Authority)が、脆弱性の説明や影響を受ける製品、欠陥のタイプ、危険度スコアなどをあわせて提供しています。
問題は、CNAごとに分析能力や提供する情報の範囲が異なる点です。あるCVEには詳細な製品情報と危険度スコアが含まれている一方で、別のCVEには簡単な説明と参考リンクしか含まれていない場合があります。
NIST NVDは、このような格差を埋める役割を果たしてきました。NISTはCVSS、CPE、CWEを補強してきました。CVSSは「どれほど深刻か」を示します。CPEは「どの製品が影響を受けるか」を知らせます。CWEは「どのような方法で作られた欠陥か」を説明します。
CVSS:脆弱性自体の技術的な深刻度
CPE:影響を受ける製品とバージョンを標準化して表示する体系
CWE:脆弱性がどのような種類のソフトウェア・ハードウェアの欠陥であるかを区別する分類
これらの情報が結合されて初めて、脆弱性スキャナーや管理ツールが「自社で使用している製品に問題がある」や「この脆弱性を優先して修正する必要がある」と自動的に判断しやすくなります。
総合検診から救急救命室方式へ
NVDが選択した手法は「トリアージ(救急外来での患者選別)方式」に近いです。
トリアージとは、救急外来や災害現場で患者の状態をまず分類する手法です。患者が一度に押し寄せると、医療陣はすべての患者を到着順に診療することはできません。命が危険な患者を優先的に治療し、比較的緊急性の低い患者は後回しにします。
NVDの変化もこれと同様です。以前は可能な限りすべてのCVEを分析して標準化された情報を付与しようとしていましたが、現在は実際の攻撃に利用されたり、米国政府に大きな影響を与えたりする可能性のある脆弱性を優先的に処理しています。
NISTが業務を減らすために生じた変化ではありません。 NISTは2025年に約4万2千件のCVEを補強しました。これは過去最高記録より45%多い処理量です。それにもかかわらず、新たに登録される脆弱性の増加速度に追いつけずにいます。CVEの提出量は2020年から2025年までに263%増加しました。2026年第1四半期の提出量も、前年同期に比べて約3分の1多くなっています。より迅速に分析しても、脆弱性が急増する構造に直面しているのです。
NISTは新たな運用方式を適用するにあたり、2026年3月1日以前に公開された未分析のCVEを「分析予定なし(Not Scheduled)」の状態に移行させました。業界の分析によると、このプロセスで約2万9千件が再分類されました。これは2万9千件の分析を完了したわけではなく、分析待ちの状態から「現在分析予定なし」の状態へと移行させたものです。
NISTは、リソースが許せば過去の脆弱性も分析できると説明しています。また、ユーザーがメールで特定のCVEの分析を依頼する手順も設けました。
しかし、これは限られたリソースを重要な脆弱性に集中させるための補完的な措置です。数万件の脆弱性をすべて分析する従来の構造を代替できるような、大量処理方式ではありません。
「点数がない」という言葉の正確な意味
NVDの優先分析対象から除外されるからといって、すべての情報が消えるわけではありません。CNAがすでにCVSSやCWE、影響を受ける製品情報を提供していれば、CVEレコードにその情報が残ることがあります。変わった点は、NISTがすべてのCVEに対して個別の分析情報を提供するとは期待しにくくなったことです。
NISTは、CNAがすでにCVSSスコアを提供している場合、個別のNISTスコアを日常的に再評価しないことにしました。重複作業を減らし、限られた人員を優先度の高い脆弱性に集中させるための措置です。
問題は、CNAごとに分析能力や基準が異なる点です。あるレコードには製品やバージョンが詳細に整理されていますが、別のレコードでは情報が不足している場合があります。同じ脆弱性に対して、機関ごとにCVSSスコアが異なる結果となる可能性もあります。
これからは「公式スコアがない」という理由だけで危険ではないと判断してはなりません。スコアがないということは安全であるという意味ではなく、まだ十分な分析が行われていないという意味である可能性があります。
欧州は、米国の情報だけに依存しないよう、独自のデータベースと分散型識別体系を拡大しています。
今やセキュリティ脆弱性を判断する責任の大部分が、国家機関や公共データベースから個別組織へと移行しつつあります。
脆弱性管理基準を変更せよ
CVEプログラムの四半期ごとの集計を合算すると、2025年の新規CVEは約4万8千件で過去最大レベルでした。2025年第4四半期だけで1万2,796件のCVEレコードが発行されました。 2026年に入っても増加傾向は続いています。
明らかなことは、脆弱性の発見、公開、攻撃への悪用、そのすべてのスピードが加速しているという点です。すべての脆弱性を同じ深度で分析し、同じスピードで修正するアプローチは、もはや現実的な解決策とは言えません。
今後、組織はCVSSスコアだけで対応の優先順位を決めるべきではありません。少なくとも次の要素を合わせて確認する必要があります。
自組織が実際に使用している製品か
インターネットやパートナー企業のネットワークに露出しているか
重要なデータや基幹業務に接続されているか
実際の攻撃に悪用されているか
攻撃コードが公開されているか
アカウントやクラウドの権限が過剰に設定されているか
他の脆弱性と連携して攻撃ルートを作成できるか
セキュリティ制御や検知システムで攻撃を防ぐことができるか
脆弱性管理の基準は「世界で最も高いスコア」から「自組織にとって最も危険な攻撃ルート」へと変化すべきです。そのためには、NVDだけでなく、ベンダーのセキュリティ勧告、CISA KEV、EPSS (Exploit Prediction Scoring System)、EUVD (European Vulnerability Database)、商用脅威インテリジェンス、SBOM (Software Bill of Materials)、資産管理情報、外部露出情報などを複合的に活用する必要があります。
脆弱性が実際の資産とどのように関連し、攻撃者がどこまで侵入できるかを検証しなければなりません。
「外部のスコア表がなくても、自社のシステムでどの脆弱性が本当に危険かを判断できるか。」
この質問に答えられない組織は、2つのリスクに直面します。
1つは、スコアが未設定であるために発見できない脆弱性です。もう1つは、スコアが低いため対応を後回しにしたものの、他の弱点と結びつくことで深刻な攻撃ルートとなってしまった脆弱性です。
情報が不足しているために攻撃される時代は終わりつつあります。これからは、情報が多すぎるために本当に重要なリスクを見落とす時代が到来しています。
脆弱性管理の核心は、より多くのリストを受け取ることではありません。自組織の資産、業務、権限、ネットワークを基準にして、何が本当に危険かを判断する能力です。
参考資料
NIST、NVD運営改編を発表
2026年4月15日の改編、優先分析基準、263%増加、2025年に約4万2千件を処理、CNAスコアの活用方針。NVD公式ホームページ
NVDの役割とSCAPベースの脆弱性管理情報の説明。NVDステータスダッシュボード
Awaiting Enrichment、Undergoing Enrichment、Not Scheduledなどの現在の処理ステータス。CISA、CVEプログラム契約に関する公式見解
資金問題ではなく契約行政の問題であったというCISAの説明。Nextgov、CISAのMITRE CVE契約延長を報道
契約満了直前の11ヶ月延長オプション実行の過程。ENISA、EUVD公式発表
EUVDのNIS2根拠、データ構成、CVE・KEV・ベンダー情報の連携方式。EUVD公式データベース
欧州連合の脆弱性情報照会サービス。GCVE、db.gcve.eu公開発表
2026年1月7日の統合データベース公開と25以上の情報源連携。GCVE公式ニュースおよび技術資料
GCVEの分散型脆弱性識別・発行構造とプロジェクトの発展過程。db.gcve.eu公式データベース
GCVEと既存の脆弱性情報源の統合検索サービス。CVEプログラム 2025年第4四半期レポート
2025年第4四半期のCVEレコード1万2,796件などの発行統計。FIRST、CVSS公式ガイド
CVSSの目的と技術的深刻度評価基準。NVD、CPE公式ガイド
製品とバージョンを標準化して識別するCPE体系。MITRE、CWE公式ホームページ
ソフトウェア・ハードウェアの脆弱性タイプ(弱点)分類体系。

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